納棺式での風景

〜最期の思い出が、温かな記憶に変わるとき〜

「お母さん、気持ちよさそうだね」

その言葉とともに、穏やかな笑顔がこぼれました。

大切なお母さまを亡くされた、二人の娘さま。

この日、私たちはお二人に見守られながら、お母さまの湯灌と納棺式をお手伝いさせていただきました。

お別れの時間には、涙がつきものです。

けれど、この日の納棺式には、涙だけではない、たくさんの笑顔と温かな会話がありました。

そして、その笑顔の奥には、私たちが最初には知ることのできなかった、ご家族の物語がありました。


少しずつ、いつものお母さんへ

最初に行ったのは、お顔の表情を整えるエンゼルケアです。

お二人の娘さまにも、最初からお立ち会いいただきました。

お顔を丁寧に整えていくと、少しずつ穏やかになっていくお母さまの表情。

その変化をご覧になりながら、お二人はとても喜んでいらっしゃいました。

亡くなられた方のお顔には、さまざまな変化が生じることがあります。

けれど、適切なケアを重ねることで、その方らしい穏やかな表情を取り戻せることがあります。

ご家族の記憶の中にある、大好きだったお顔。

その面影が少しずつ戻ってくる時間は、ご家族にとっても特別なものになるのだと感じます。

続いて行ったのは、湯灌です。

温かなお湯でお身体を清めていくと、

「お母さん、気持ちよさそう」

そんな言葉が自然と聞こえてきました。

娘さまにも、お母さまのお顔を優しく拭いていただきました。

幼い頃、何度もお母さまに顔を拭いてもらったことがあったかもしれません。

今度は娘さまが、お母さまのお顔を拭いてあげる。

その光景を見ながら、言葉にしなくても伝わる想いがあるのだと感じました。


お母さまが身にまとった、思い出のウェディングドレス

この日のお着付けには、特別なお衣装が用意されていました。

それは、お母さまの思い出が詰まったウェディングドレス。

人生の大切な節目に身にまとった、特別な一着です。

そのドレスを、人生の最期にも着せてあげたい。

そんなご家族の想いを受け取り、丁寧にお着付けを進めました。

ドレスに身を包んだお母さま。

お化粧を施し、髪を整え、身支度を進めていくと、そこには美しく穏やかなお母さまのお姿がありました。

そのお姿をご覧になったお二人は、本当に嬉しそうでした。

大切な人が美しく整っていく。

それは単に外見が変わるということではありません。

ご家族の心の中にある、その方らしい姿と、目の前のお姿が重なっていく時間でもあるのだと思います。


涙の中にあった、たくさんの笑顔

そして、納棺の時間を迎えました。

お母さまをお棺へとお納めする場面では、娘さまたちの目に涙が浮かぶこともありました。

大切な人とのお別れです。

寂しくないはずがありません。

それでも、この日の納棺式には、不思議なほど温かな空気が流れていました。

お母さまのお姿を見ながら笑顔になったり、思い出を語り合ったり。

涙を浮かべながらも、優しい表情でお母さまを見つめるお二人。

私はその様子を拝見し、とても仲の良いご家族なのだと感じていました。

そこで、ご長女さまにその想いをお伝えしました。

すると、ご長女さまから思いがけないお話を伺いました。

「実は、妹と母は幼少期の経験から、少しギスギスしていたところがあったんです」

私は少し驚きました。

目の前にあったのは、穏やかにお母さまを見送るお二人の姿だったからです。

ご長女さまは続けて、こうお話ししてくださいました。

「でも、表情を整えて、きれいになっていく様子を見ている中で、妹も自然と笑顔になっていました」

そして、

「母と私たちの最期の思い出が、温かいもので終われたことが、とても嬉しいです」

その言葉が、私の心に深く残りました。


過去は変えられなくても、最期の思い出は変えられる

家族だからこそ、さまざまな想いがあります。

楽しかった思い出ばかりではないかもしれません。

ときには、すれ違ったり、傷ついたり、素直になれないまま時間が過ぎてしまうこともあるでしょう。

長い年月の中で生まれた感情を、たった一度の納棺式ですべて解消できるわけではありません。

それでも、私はこの日の光景を忘れることができません。

お母さまが少しずつ美しく整っていく姿を見つめながら、自然と笑顔になっていく娘さま。

お母さまに触れ、声をかけ、思い出を語り合う時間。

その積み重ねが、ご家族の心に何か温かなものを残してくれたのではないでしょうか。

過去にあった出来事は変えられなくても、最期に一緒に過ごす時間は、温かな思い出にすることができる。

私は、この納棺式を通して改めてそう感じました。


お別れを、悲しいだけの時間にしないために

大切な人を亡くすことは、とても悲しいことです。

その悲しみを無理に和らげようとする必要も、笑顔で見送らなければならない理由もありません。

涙を流してもいい。

思い出を語り合ってもいい。

笑顔になってもいい。

そして、伝えられなかった想いを、そっと心の中で届けてもいい。

納棺式は、亡くなられた方のお身体をきれいに整え、お棺にお納めするだけの儀式ではありません。

大切な方とご家族が、もう一度ゆっくりと向き合うことのできる、かけがえのない時間です。

お顔を拭いてあげること。

髪を整えてあげること。

お気に入りのお洋服を着せてあげること。

「ありがとう」と声をかけること。

その一つひとつが、ご家族にとって大切な思い出になることがあります。

そして、その思い出が、残された方々のこれからを支える力になることもあると、私は信じています。


最期の時間を、これからを生きる力へ

納棺師として、これまで多くのご家族のお別れに立ち会ってきました。

同じお別れは、一つとしてありません。

ご家族の関係も、歩んできた人生も、大切にしている想いも、それぞれ違います。

だからこそ、決まった形に当てはめるのではなく、お一人おひとりの想いに寄り添うことを大切にしています。

今回、ご長女さまからいただいた、

「母と私たちの最期の思い出が、温かいもので終われたことが、とても嬉しいです」

という言葉。

私にとっても、忘れられない大切な言葉になりました。

お別れは、悲しいものです。

けれど、その時間が悲しみだけで終わる必要はないのだと思います。

懐かしい思い出に触れ、家族の絆を感じ、時には新たな気持ちで大切な人を見送る。

そんな時間が、明日を生きる小さな力につながっていく。

私は、納棺式にはそのような可能性があると感じています。

最期のお別れが、これからを生きる人の心を温める時間になるように。

これからも、一つひとつのご縁を大切に、ご家族それぞれの想いに寄り添った納棺式をお届けしてまいります。


悠縁(ゆうえん)
納棺師・エンゼルケア講師 池田 真輔

安心と尊厳を、あなたのそばに。

納棺式や湯灌について、「どのようなことをするのだろう」「家族も一緒に参加できるのだろう」と疑問をお持ちの方もいらっしゃると思います。

悠縁では、納棺式や湯灌についてのご相談も承っております。

大切な方との最期の時間を、どのように過ごしたいか。

その想いを、どうぞお気軽にお聞かせください。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次